2017.09.15
【渋谷】のんべえ横丁の歴史『まぐろ処』『なだ一』
渋谷といえば若者が集うオシャレな街の代名詞ともいえる場所。中でもJRハチ公口は、ファッションビル109や世界的にも有名になってしまったスクランブル交差点を抱えるエリア。そのすぐそばに、まったく現代の渋谷らしくない、昭和にタイムスリップしたような異空間が存在する。それが知る人ぞ知る「のんべい横丁」である。
実は東京の主要な街には数々の横丁が存在する。新宿のゴールデン街や思い出横丁、池袋の法善寺横丁、恵比寿の恵比寿横丁、吉祥寺のハーモニカ横丁、浅草のホッピー横丁あたりが有名どころだろうか。そんな横丁の一つとして挙げられるのが渋谷のこの「のんべえ横丁」である。
もともとは屋台の集まりだったという。今の東急本店通りや道玄坂あたりを中心に、渋谷の各地で商売をしていた屋台の飲食店が今の場所に集まって始まったのが「のんべい横丁」とのことだ。
屋台の集まりだった「のんべい横丁」は、1軒また1軒と屋台から小さな店となり、少しずつ今の横丁の様相を呈していったという。それが昭和25、26年頃だったらしい。
当時から残っている店は少なくなったが、オーナーが変わり出す料理は違っても「のんべい横丁」の空気感だけは、今も当時と変わっていない。
そしてそんな「のんべい横丁」から、今回紹介するのは「まぐろ処」と「なだ一」だ。
オーナー同士が兄妹という珍しいお店。
ちなみに「なだ一」の方は、「のんべい横丁」が始まった頃から続く老舗のおでん屋さんだ。
まずは、兄のノリオさんがご主人を務める「まぐろ処」から紹介。
今年で35年目の「まぐろ処」だが、のんべえ横丁の歴史から見るとまだまだ老舗とはいえないという大将。最初は別の人がやっていたのだが、その店を閉めることになり、近所のご縁ということで斜め前の「なだ一」の先代が譲り受け、それを孫にあたる大将たち兄弟が切り盛りしはじめたのが始まりだという。
ここのオススメは、看板通り、まぐろをはじめとした新鮮な魚介類。毎朝築地まで大将のノリオさん自らが買い付けに行き、その日最も新鮮な魚介類をその日のうちに供する。なのでメニューも、まぐろの刺身以外はほとんど日々変わるため、それを楽しみに毎日通う常連も多い。
ちなみにここは生ビールがない。
「入れようと思ったんだけど、あんまり狭すぎてサーバーが入れられないんだって(笑)」
とノリオさん。しかし、心配はいらない。妹のチトセさんが女将を務める「なだ一」から届けてもらうシステムとなっているのだ。
しかも、ここでは「まぐろ処」「なだ一」のメニューをお互いデリバリーできるようにしているため、どちらのお店にいようとも、どちらのお店のメニューも堪能できるようになっている。「まぐろ処」の席が空いていない時など、常連のお客さんに「なだ一」で待ってもらったりすることもあるのだが、そのまま最後まで「なだ一」に居座ってしまう常連さんもいるとか。もちろん、逆もしかりである。つまり、この二つのお店の常連さんは、両方の常連さんである場合も多い。
そして次は、妹・チトセさんの「なだ一」だ。
前述したように、創業者は戦後の「のんべい横丁」からの生え抜き。今の女将のおじいちゃんおばあちゃんにあたる。二代目にあたる母が女将をしている時に、「まぐろ処」と「なだ一」の両方でお手伝いをしていた今の女将・チトセさんが、三代目を引き継いだ。
ここのオススメは、何といってもおでん。初代の頃は関東風の真っ黒なおでんだった頃もあるが、今は澄んだおだしが良くしみた上品なおでん。ちなみに、某大手コンビニチェーンの担当が通い詰めて、その味を研究し、自社のコンビニおでんに活かしたという逸話もある絶品おでんである。
「まぐろ処」の項でも書いたが、「なだ一」でも「まぐろ処」のメニューを頼むことが出来る。おでんをつまみながら、ちょっと刺身や焼き魚が食べたいなぁと思えば、チトセさんに頼んで「まぐろ処」に注文してもらえばいいというわけだ。兄弟ならではのこの連携は、いかにも家族的な「のんべい横丁」っぽくてホッとする光景である。
「のんべい横丁」自体がそうなのであるが、その中で育った「まぐろ処」も「なだ一」もとにかく居心地が良い。最近では若い女性の一見さんも増え、みんなおっかなびっくりのぞき込むのだが、ひとたび中に入れば、おせっかいな常連さんたちが温かく迎えてくれる。
はじめてきたのに30分もいれば常連気分になって、また来よう!と思ってしまう不思議な空気感があるのだ。
「ウチなんて、飲み食い目当てより、誰か人に会いに来るって感じの常連さんばっかだよ。オレの料理目当てじゃなくてさ(笑)」
と豪快に笑うノリオさん。いやいや、ノリオさんの料理とトーク、お店の雰囲気あってこそ、常連さんも安心して通えるのである。「なだ一」もしかり。
「のんべい横丁」の空気感をそのままに、新しい人も常連さんも分け隔てなく目に掛けてくれる店だからこそ、ここには人が集まるのだ。
「まぐろ処」そして「なだ一」、次に行くときには、思わず「ただいま」と言ってしまいそうな、そんなホッとする店でなのである。
『まぐろ処』
住所/東京都渋谷区渋谷1-25-10
TEL/03-3486-0150
定休日/日曜・祝日
営業時間/18:00~0:00(L.O.23:00)
『なだ一』
住所/東京都渋谷区渋谷1-25-10
TEL/03-3409-8773
定休日/日曜・祝日
営業時間/18:00~0:00(L.O.23:00)